ゴー宣DOJO

BLOGブログ
切通理作
2018.1.5 04:48

「キモイいい」をどう乗り越えるか

これは遠回しには道場のテーマとつながってくると思うのですが、僕の今年のテーマは「『キモイいい』をどう乗り越えるか」。

小林さんのブログで、紅白の事が書いてありましたが、自分もいまの日本に住む
1人として漠然と感じていることが、言葉になった気がしました。

 

紅白って、昔は夜9時からだったけど、7時はじまりの二部構成になってからは、まずは若手スターの集団舞踏系のパフォーマンスで盛り上げて、場を温めたところで、じっくり歌を聴かせるベテランが降臨するというスタイルが定着してきた気がします。

 

たしかに、練習を重ね、身体能力を高め、贅を凝らした装置の前で歌い踊る若者たちは眩しく、その年のエンタメの粋を見せてくれます。

 

けれど、詞の中身は、聴いている人の中にある<自分>をひたすら励ましてくれる、自己完結型の言葉が目立ちます。

 

手前味噌ですが、僕の初監督映画『青春夜話』では、目の前で同世代の女の子がチアダンスを踊り、リボンをひらめかせてくれる中で「俺、応援されてるみたい!」と思わず本音を洩らす20代の男の子の姿を撮りました。

 

彼は「キラキラした女子、嫌いなんだろ。軽薄なキャラを演じてみろよ!」と女の子をけしかけますが、いざ彼女が自分の周りをぐるりと囲んで踊りまわると、さっきまでのシニカルな視点はどこへやら、悦に入った表情になってしまうのです。

 

学校時代はイケてなかった2人は、夜の学校に忍び込む事で、青春の復讐を果たしていきます。

 

元文部科学省の役人だった映画評論家の寺脇研さんが「これは<キラキラ青春映画>へのアンチテーゼだ、と言ってくれました。

 

けれど僕は、単なる皮肉や当てつけをしたかったわけではありません。

踊らされる格好になった女の子は女の子で、「キラキラした青春なんて」と言いながら、ダンス音楽をいつも携帯に入れていて、頭の中で踊る自分をイメージし続けていたことが、あからさまになるのですから。

 

寺脇さんは、『青春夜話』上映後のトークで「いつから、日本の青春映画は『キラキラ』ばかり描くようになってしまったんだろう」と疑問を投げかけました。

 

「でも昔の青春ドラマだって<青春は素晴らしいもの。若さは一度しかない>ってメッセージを送り続けていたんじゃないですか」と僕が言ったら、寺脇さんは、昔とは似ているようで違う、と言います。

 

「こんなにキラキラ、キラキラばかりが正しいというような描き方じゃなかった。青春はみっともないもの、もがき苦しむものだというのが一般的な感覚だった」

 

自分を祝福してくれる<キラキラ>を散りばめないと、満足できない体質になってしまっているけれど、現実にはなかなかそれが得られない。そんなあり方を突き放して見つめながらも、その切実さを通らないと、いまの<時代>に切り込んだことにはならない・・・そんなことを、映画作りの最中から、考えていたことも事実です。

 

かつてこちらのブログで決意表明した全国順次公開への旅、明日から始まります。

今夜、大阪行きの深夜バスに乗ります。

 

会場である第七藝術劇場では、20:40からの上映開始前、6()とその翌日、【切通理作 批評ワークショップ「お前がセカイを変えたいなら」】を行います。

2018.1.6() 17時から

1.7() 16時から

http://www.theater-seven.com/2018/ev_180106.html

 

いささか気恥しいタイトルですが、開き直ります!劇場スタッフでもある映画監督の西尾孔志さんに付けて頂きました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分が書いた文章で、セカイを少しだけ変える事ができるかもしれない。

 批評にはそんな力があるはずである。

 映画からセカイ系アニメやロックなど、カルチャー批評の雄・切通理作氏を講師に招いての《批評を書いてみる》ワークショップ。(内容紹介文より)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 西尾さんは僕の本を初期から読んでくださっているというので、ビックリしました。「お前がセカイを変えたいなら」というタイトル。ライターになれますとかいう次元じゃなくて、スケールは大きいけれど、東京でもなかなか成立することは難しいであろう野心的な試み。エンタメやイベント系は東京の4分の1の集客といわれる大阪では、無謀ともいえる試みです。

 

でも西尾監督は以前、自作の登場人物に「文化で世界を変えると信じている」と言わしめた人物。

その確信犯ぶりに「乗ったゼ!」という気分です。

もし参加者が1人でも、その人と一緒に何かを始められればと思います。

 

受け身ではない、単にキモチ良さを求めるタコツボでもない、己と世界に問いかける旅。

映画の上映も含めて、地方の文化を支える皆さんに会いに行きます。

 

 

■大阪 第七藝術劇場 1/6()から12(金) 連日20:40より

 http://www.nanagei.com/

 

1/6()  初日舞台あいさつ&アフタートーク 深琴(主演ヒロイン) 切通理作(監督)

 

1/7()   舞台あいさつ・深琴(主演ヒロイン) 

        アフタートーク 切通理作(監督)

 

1/8()  切通理作の異常な愛情、または彼は如何にして心配するのを止めて映画を作るようになったか?

トークゲスト・ 浅尾典彦(映画ライター・プロデューサー・夢人塔代表)

 

1/9()  ひとが映画でエロを撮る衝動とは?

トークゲスト・原一男(映画監督)

 

1/10() 長靴を履いた猫の靴下の中で見つけたエロース

 トークゲスト・竹内義和(作家、コラムニスト、出版プロデューサー)

 

1/11()  初公開!『青春夜話』メイキング上映(東京上映では未公開)

 

1/12()  映画でセカイは変えられるのか

 トークゲスト・ 西尾孔志(映画監督『ソウル・フラワー・トレイン』『函館珈琲』)

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

次回の開催予定

INFORMATIONお知らせ